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東京都港区南青山にある空間オーディオ専門のプロダクション『山麓丸スタジオ』にお邪魔してきました。
このスタジオでは株式会社ギャラクシーと協力しながら、日本でも数少ないレコードの原盤となるラッカー盤を製作しています。

山麓丸スタジオとは?

今回訪問した『山麓丸スタジオ』は、日本初の360 Reality Audioに特化した空間オーディオ専門のプロダクション・スタジオ。併設されたカッティング・スタジオCISCO Mastering & Cuttingでアナログ盤レコードのカッティングを行う。

13.1chのミックスルーム
13.1chのミックスルーム

お話を伺ったのは、かつてヨーロッパを中心に演奏活動をされていたアーティストの経歴を持つ、Chester Beattyさん。
株式会社山麓丸、プロデューサーでレコードカッティングエンジニアでもあります。

カッティングスタジオとレコードカッティングエンジニアのChester Beattyさん

レコードのカッティングとは?

カッティング」とは、アナログレコード制作の肝となる、とても大切な工程です。
みなさまの手元に届くレコードは、世界でたった一枚しかないオリジナルのマスター盤から出来上がります。

このマスター盤作りは、ラッカー盤とよばれる樹脂コーティングした板の表面に、専用のアンプで増幅された音の振動を、カッティングマシンの針を通して「」として刻むところから始まります。
もちろんこの「カッティング」がレコードの音を大きく左右することは言うまでもありません。

作業前のラッカー盤
作業前のラッカー盤

レコードに刻まれた溝の幅の大小で音の表情が激変します。
幅が大きいと低音、小さいと高音だったり。またレコードは内側に行くほど音質が悪くなるので、それらのポイントを吟味しながら細かい調整を重ね、良い音をラッカー盤に刻んでいきます。

まさにカッティングとは経験と勘が必要な匠の仕事なのです。

溝を刻まれていくラッカー盤
溝を刻まれていくラッカー盤

CISCO Mastering & Cuttingのカッティングマシーン

現在日本でカッティングを行っているのはわずか数箇所。その理由はカッティングに使うマシンが手に入らないためなのです。
かつては日本にも多くのカッティングマシンがありましたが、それらは廃棄され、再生産されていません。

こちらのスタジオで使っているカッティングマシンも、オーストラリアから輸入。
元々ドイツ・グラムフォンで使われていたマシンで、カラヤンのレコード盤などもカットされていたかも!?のモノだそうです。

また溝を削るヘッドの部分はニューヨークから取り寄せたという貴重な1台。特にヘッドの部分は壊れたら代用がきかない大事な部分。

Neumann VMS70

そんな貴重なマシンにアドパワー・ソニックを導入し、カッティングの作業をされているChesterさん。
貼る場所は試行錯誤を重ねてより効果が高いと思われる位置、ヘッドの部分とヘッドを支えるアームの付け根の部分に計2枚貼られています。

アドパワー・ソニックを2枚使用

Chesterさんへのインタビュー

1つのラッカー盤を作るのにどれくらいの時間がかかりますか?

Chesterさん:
カッティングマシンを使って溝を刻むのは10分程と短いのですが、下処理に多くの時間をかけています。
ものによっては1日、2日、納得いくまで時間をかけようと思えばいくらでも掛かってしまいますね。


カッティングをする上でご苦労されていることは?

Chesterさん:
レコードの制作って制限との戦いなのです。
例えば、溝を深く切れば音は良くなりますが、反面、収録できる分数が少なくなります。逆に溝を細くすると、楽曲は沢山入りますが、音は悪くなります。針飛びの問題もあります。
いい音を刻もうとカットしたアナログ盤がプレスした後、家庭のプレーヤーで針飛びがして再生できないこともあります。
もちろんカットするスタジオの環境も重要です。電源や静電気、高周波ノイズなど、音が悪くなる要素をなくして、細かい調整作業を積み重ねています。


デジタルとアナログでは音にかなり違いがあると思いますが、カッティングする音源の準備で留意しなければいけない点は?

Chesterさん:
高域の処理です。
デジタルはクリップしなければ高音も低音もたっぷり入れることができますが、アナログはとてもシビアです。ちょっとでも規定の音量を超えるとアンプ内のブレーカーがかかって強制的にカッティングできなくなります。
特に高域の処理には毎回悩まされます。規定に収まるよう、高域をナローにすると全体的な輪郭はぼやけますし、逆に高域を活かせば全体的な音量を落とさなければいけません。


アドパワーをマシンに貼ったことでどう変わりましたか?

Chesterさん
音の輪郭がはっきりと立って聴こえるようになります。音の粒が一つ一つ立ち、音像がスッキリする感じ。
驚くぐらい変化します。昔ながらの機械的な駆動系のマシンだからなのか、劇的です。
同じ効果をEQやコンプレッサーでも作ることはできますが、アドパワーは貼るだけですからね。
アドパワーを貼っている箇所は全部で2箇所。ヘッドの上と、ヘッド周りのケーブルをまとめているコネクターです。

本当はターンテーブルの部分にも貼りたいのですが、丸みを帯びたところなので断念しました。
特にヘッド部分での変化は大きいので、民生のターンテーブルでも同じ効果があるのでは。例えばカートリッジの上に小さく切ったアドパワーを貼るなど。
もちろんトーンアームのバランスが変わるので、そこはしっかり測定してください。

またスタジオで使用しているモニターのB&W801Matrixには、それぞれ三枚のアドパワーを使っています。
特にバスレスポートは大きな変化があり、こちらは目を見張るものがあります。同様に立体音響で使う13本のモニタースピーカー、GENELEC 8331APにも同様にバスレスポートに使用していますが、こちらは定位がはっきりし、立体感がより増しました。


アドパワーに期待されることは?

Chesterさん
アナログのカッティングマシンは50年も前に作られ、言ってみれば工場で使用するマシンです。
そのため丸い所、平面のところだけでなくカーブで曲がっている部分が多くあります。もしアドパワー柔軟性、大きさも選べると、汎用性がでて使いやすいです。

カッティングマシンを調整するChesterさん。

CDやネット配信などで音楽を聴くことが多くなった近頃、アナログレコードは若い世代の間で注目され再び人気が出てきています。そんなレコードの製作はChesterさん達のような熟練したカッティングエンジニアによって支えられているんですね!

「最近はカッティングの注文が増えており、これからどんどん増やしていきたい!」と意気込むChesterさん。「レコードは、尖っていない、温かくてより人間味のある音がする。ぜひ使って欲しいです!」というメッセージもいただきました。

『山麓丸スタジオ』
日本初の360 Reality Audioに特化した空間オーディオ専門のプロダクション・スタジオ。併設のカッティング・スタジオCISCO Mastering & Cuttingでアナログ盤レコードのカッティングも行なっている。

詳細はこちら
sanrokumarustudio.com

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