山元 淑稀✖️石寺 健一 With AdPower<後編>
〜映画「左様なら今晩は」のサウンドを手掛けたプロが語る!
映画制作とアドパワーの可能性〜
前編では映画「左様なら今晩は」の音楽制作を担当された山元淑稀氏と石寺健一氏に、映画館での音の違いについて、制作現場でアドパワー・ソニックを使うに至った経緯、そして弦楽器等でも試していただいた際のお話などをお聞きしました。続く後編では映画における音作りについてや実際の現場でのアドパワーの活用、そして映画業界におけるアドパワーの秘められた可能性についてうかがったお話をご紹介いたします!
山元 淑稀
作曲家/映画音楽作曲家/プロデューサー/ターンテーブリスト/キーボーディスト/パーカッショニスト
数々のアーティストへの楽曲提供・プロデュース、映画・舞台・コマーシャル等の映像音楽など、歌ものからインストまで 様々な分野の作品を手がけており、そのキャッチーなメロディや 熱量・情感のあるアレンジには定評がある。
公式サイト:https://www.yamamotoyoshiki.style
石寺 健一
サウンドミキサー/スーパーバイジングサウンドエディター
映画、「左様なら今晩は」(2022)、「バイオレンスアクション」(2022)、「太陽とボレロ」(2022)など数々のヒット映画作品の録音を手掛ける。「剱岳 点の記」では第33回日本アカデミー賞 最優秀録音賞を受賞。
映画作品一覧:https://moviewalker.jp/person/203510/
映画における音作り
石寺氏(以下石):
僕が普段やってるフィールドレコーディングというのは撮影の現場でセリフを録ることで、ロケに⾏ってそこで⾳を録ってくるんですけど、現場の状況が良くない所で録る事が多いです。こういうスタジオで録った⾳は、ベースが静かな空間なので(質の)いい⾳が録れるんです。でもロケで録ると⾊んなノイズに溢れてて。⾳が汚れた状態で収録されることが多いです。
だからポスプロという段階で、その汚れている⾳をクリーニングしていくんですが、その作業をする時に、元々の素材の⾳なのか、それとも作業部屋のノイズなのかがちょっと分かりづらいんです。癖とか分からずに⾏って、そこに元々あるノイズに気付けない。でもアドパワーを貼る事で、より素材のピュアなノイズと⾔うか、現場で録った本来の素の⾳が聞こえるようになってくる。だからクリーニングの仕⽅がちょっと変わってきたり。
映画の⾳は、シンクロという現場のフィールドレコーディングで録ってきた録⾳素材をキレイにクリーニングしたセリフのトラックと、アフレコで収録されたセリフのトラック、そして⾳響効果さんが担当する⾳の3つで構成されています。
山元氏(以下山):
ドキュメンタリーとかとは全然違うんですもんね。
石:
そうですね。例えば今このスタジオ(での撮影だと仮定して)だと、こんな⾵にPC のファンの⾳がしてますけど、芝居にとってはこれは邪魔になってしまう。そうするとこの⾳は無くすというようにクリーニングをしてなるべくセリフだけが綺麗に残るようにする。そうすると、セリフはキレイになってよく聞こえるようになるけど、その⾳だけだとこのスタジオっていう雰囲気がなくなってしまう。
山:
空間の広さも出てこない。だから再構成してるんですよね。
石:
そう、空調の⾳や椅⼦のきしみの⾳などの効果⾳をもう⼀度付け直し、再構成する⾳響効果さんがいるんです。しかもセリフや⾳楽の邪魔をせずに、でも主張もする時はするっていうように。
山:
うん、効果部さんの主張は、作品上でとても重要なファクターですからね。
石:
そういう⾳の作業をするときに、スタジオにいるからいい状況とは限らないですね。スピーカーの調⼦や部屋の調⼦もあったりするんですけど、なるべくノイズになりそうなものを抑えて⾳を聞いて作業した⽅が、より⾳のコントロールがしやすくなります。
山:
⼀緒にやらせて貰ってる⾳効技師さんも素晴らしい⽅ばかりなんで、もの凄い厚みで⾳を付けてこられるんですけど、仕込み部屋とかで⾳を重ねてみると、⾳楽の下の⽅が予想していたより多く削れたように聞こえちゃったり、広めに作っていたつもりでも周りが埋もれてわりとなくなってしまったように聞こえたりして、どこをどう触れば監督が描かれたイメージに出来るかとか、なかなか分かりにくくなる。シーンごとに⾳数や情報の数がハンパなく多いですから。
仕上げのスタジオに⾏っても、いつも⾃分が作業してる場所じゃないから、繊細なちょっとした違いが、これまでだと分かりにくくなってたってのはありました。
石:
それが放置されたまま完成してしまって映画館で流れてしまうと困るんです。「うわ、なんか変っ!」って。
それがアドパワーを使ってチェックすると⾳像が全てしっかり聞こえるので、「ここはこうだね、ここはこのトラックがこうだね」っていうのが制作段階でもしっかり分かって良いですね。
映画制作の現場でアドパワーをどう使うか
山:
この映画で7 分間くらいの⻑回しのシーンがあるんです。主⼈公の⼆⼈が語り合っていて、セリフがあって、そこに⾐ずれとか部屋のノイズ(⽣活⾳)とかがパンパンに⼊ってて、それらに対してギター1本だけで⾳楽を付けてるシーンなんですが。
石:
普通そういうシーンだとギターが引っ込み(⾳が出にくい)ますよね。
山:
菅沼聖隆さんっていう、スペインで活動されてたり、国際コンクールでも沢⼭の受賞をされてる⽅に弾いてもらってるんですけど、その⽅の素晴らしい演奏あっての事もあるんですが、ギターが他の全ての⾳や情報を⾶び越えて、役者さんの⼼情だけにグッと寄り添ってるぐらい効果的な⾳になったなぁって。
アドパワーを使って録ってるので、全ての雑味がなくなるとこんなにキレイにクリアに⾳が抜けてくるんだって⼿応えを感じました。
石:
どこまでやれるかはあるんですけど、例えば現場の段階、それと仕上げの段階も、セリフ・⾳楽・効果と、この全ての段階でアドパワーを⼊れてどう変化があるか、さらにそれを組み合わせるという。
山:
⾳効部さんがフォーリーやったり仕込まれる時も、全てにアドパワーソニックを導⼊してやるとどうなるかってのが毎回楽しみになりますよね。
石:
アドパワーを貼った事でやる作業の精度が変わるというか。
山:
今わりと、「貼って良くなりました」って話だけが⼀⼈歩きしてるじゃないですか?確かに貼って⾳の聴こえ⽅とかは良くなるんだけど、それだけじゃなくて、僕らはクリエイターの⽴場なんだから、それを使って更に何か新しい事をしないと。発明したものをただ使わせてもらってるだけになってしまうのは惜しいじゃないですか。
石:
マイクに貼ったりするのは⼊り⼝じゃないですか。そこで貼って録れた⾳がクリアであるなら、作業をする時にさらにクリアな環境でそれを再⽣して、加⼯して、っていうふうに積み重なった時に、⼀体どうなるのかっていうのがまだ実現出来ていないので。それをちょっとやってみたいですね。
山:
やってみたい!こういうのハリウッドとかだとわりと簡単に通るんだろうな。海外とかのクリエイティヴに前のめりな現場だと皆、「⾯⽩いじゃん、やってみよう!」みたいな感じになるんじゃないかなと思うけど。例えば⽇本で⼀⼈の監督が「アドパワーソニックを使え」って⾔うのがあったら⾯⽩いですけどね。
映画館にもアドパワー?!その秘めた可能性
石:
アドパワーはエンジンや⾳で知られていますが、静電気のコントロールっていう事ならカメラとか、我々が撮影する時のカメラに付けたら、撮れる画が変わってくるって事もあるかもしれません。やはり常に静電気との戦いなので。
山:
全然違う話になりますけど、例えば⼯場とかだと機械もいっぱい⼊ってて静電気がバチっていって危ない事もあるだろうから、クレーンからなにから全部貼ってみると何かが絶対変わってくるんじゃないかなとも思いますね。
その良さを、僕らは⾳楽でしか伝えられないんですけど、どんどん⾊んな⼈が⾊んな使い⽅で「これ使えるじゃん!」ってなるのもまた⾯⽩いかな。僕ら映画の⼈間は、「映画館で使うんだったら、こういう使い⽅の⽅がいいんじゃないですか?」とかね。
石:
それはありますね。映画はちょっと特殊な空間で⾒るので。今、確かに配信とか⾊々ありますけど、⼤型のスクリーンで⼤⾳響で映画を楽しむ場所って特殊なので⾳のフォーマットもいっぱいあります。5.1ch サラウンド、7.1ch サラウンドとかドルビーアトモスとか。映画館が「うちにはIMAX が⼊ってるので、究極の体験が出来ます」っていうのを売りにしたりするのと同じように、ここはアドパワーを導⼊しているので、よりクリアな⾳で体験出来ますとか。
山:
今のお客さんって凄く⾳にも敏感で、「ここの劇場はこの列のセンターぐらいがスイートスポットです」って情報を知ると、観に⾏かれるファンの⽅はそこで⾒られたりするんです。「この劇場の場合、セリフがしっかり聞きたい⽅は後ろの⽅がいいかもですよ」ってTwitter でつぶやいたりすると、実際に観た感想とかもくださるので。
石:
あと、やっぱり有料なのでお客さんがこだわる。金額に見合った音を、みたいな。
山:
僕らはいつも⾦額に⾒合う以上の⾳を⽬指したいなとは思ってます(笑)。
石:
なので映画・映画館にアドパワーを付加するっていう事はお客さんにとっても凄くメリットがあるなと。
山:
1 本前の、⽔⾕豊監督の『太陽とボレロ』の時でも、僕らが「7.1ch で観ていただけると⼀番威⼒を発揮できるように作ってるので、出来れば7.1 の劇場でも観ていただけたら…」ってTwitterで呟いたりすると、やっぱり反響が凄かったです。お客さんが、⾳に関する情報にどれだけ敏感になられてるか実感しました。
昔は僕ら・・・いわゆる裏⽅が、いくらTwitterとかSNSに投稿してもそんなに効果なくて、監督とか俳優さんが⾔う⽅が断然効果があったんです。でも今は僕ら裏⽅のつぶやきにも「あの⼈たちが⾔うんだったらそうかもしれない」って受け取っていただけるように段々なってきてて。こうやって観ていただいたほうがよりイイ⾳で観れると思いますよって⾔うと、皆さんしっかり反応してくださるので有難いです。
石:
エクスペリエンスの⼀つとしてアドパワーを付加するっていうのはいけるんじゃないかと思いますね。
映画館が、⾃分たちの良さを表現する⽅法として、⼤きなスクリーン、反射率がいいスクリーン、あとスピーカーのメーカーとか、そういったもので⾳の違いを出したりしてますが、ここの映画館には⼊ってる、あっちには⼊ってないっていうものの⼀つに、「アドパワー」っていうのはありじゃないかと思います。
山:
ありですね。⾳にもこだわりたいお客さんって必ず⼀定数いらっしゃるので。
石:
映画ではドルビーという会社がドルビーサラウンドSRといって前後4つのスピーカーで包み込むのを開発してから、いわゆるサラウンド⽅式っていうのが世に定着して。当時のドルビーのロゴに「セレクテッドシアター」って書いてあって、このシステムを選んだ所でしかうちのサラウンド⾳響は聞けないよ、みたいな売りがあったんです。そのころのように⾳や映像の変化を売りにするっていうのは凄くいいですね。
山:
「アドパワーシネマティック」みたいな(笑)。
石:
とかね!(笑)スピーカーを変えるのではなく、違う体験が出来るという。
山:
僕は、⾃分が関わった作品が公開になると、10箇所以上の⾊んな劇場に観に⾏って⾳を聴いてみるんですが、中々⾃分たちがダビングの時に聴いていた⾳が出ている所がなくて、その差を少しでも埋めれるような何か良い⽅法って無いもんだろうかと。配給さん側から設定値を出して劇場さんに「これでかけて下さい」ってお願いしたりもしてるはずなんですけど、そこまで伝わってなかったりとか、ハードウェアや劇場の作り⾃体が全然違うってとこもあって。
石:
⾳を絞ってもいい⾳でクリアに出るというのは、劇場さんにとっても売りだと思うんです。
10個スタジオがあって、10個同じ⾳にはならない。全部違う、でもそれでは困るんです、本当は。全部同じ⾳が出てくれるのが理想なんですけど、サイズの問題や、作り⽅、形状もあるんで、どうしても同じにならない。でもそれが近づくぐらいの要素になれば嬉しいですね。
山:
いつか、映画鑑賞の際の劇場選びの⼀つの基準として、「アドパワースクリーン」なのか、「アドパワーシネマティック」なのかは分からないですけど、劇場にアドパワーが⼊ってて、⾳漏れするからってちょっとレベルを下げたとしても、キレイな⾳で出てくるのであれば、お客様にもご満⾜頂けると思いますし、そうなったらもっと⾯⽩いでしょうね。
〜山元さん、石寺さん、お忙しい中貴重なお話を聞かせていただき本当にありがとうございました!〜
さて前編・後編にわたってお送りしたお二人との対談、いかがでしたでしょうか?映画「左様なら今晩は」は、アドパワーソニックを使って制作された世界初の映画作品です。<ラブでピュアな幽霊><恋に不器用なサラリーマン>の奇妙な共同生活を描いたちょっぴり切ないハートフルラブコメディーです。お二人が話されていたギターのシーンも含め、役者さん達の演技を更に引き立てている素晴らしい音楽や音にも注目してお楽しみいただきたいです。全国の主要映画館で現在絶賛上映中の本作、是非ご鑑賞ください!
映画公式サイト:https://sayokon-movie.com/
本間 昭光 × 森元 浩二 対談
ポルノグラフィティやいきものがかりなど、数多くのアーティスト楽曲提供やアレンジ、プロデュースを手掛け、テレビ朝日「関ジャム 完全燃SHOW」に出演するなど多方面で活躍中の本間昭光氏と、森元氏との対談トークを実施しました。
アドパワーソニックを初めて試した時のことや、日頃楽曲を制作するにあたっての環境づくりなど、様々な切り口でトークが繰り広げられました。